2004年 5月16日
千葉言友会の基本的考え方
千葉言友会
1.千葉言友会とは
千葉言友会は、吃音者のセルフヘルプグループです。自らが考え主体的に行動しています。そして吃音者が生きていく中で抱える悩みやぶつかる困難の解消に取り組んでいます。
NPO法人として、社会へも広く働きかけ、活動しています。1人で悩む吃音者には声をかけ、吃音に関心のある人たちや団体とも連携を計っていきます。
吃音だけに捉われるのではなく、一人の人間として、吃音者が自立し成長できるよう応援していきたいと考えています。
2.吃音問題の背景
1)吃音の特徴
吃音とは、話そうとする時、同時にその意志に逆らうように、発声に関係する筋肉の緊張が起こり、ことばが詰まったり繰り返したり伸ばしたりしてしまうことをいいます。緊張したり興奮したりすれば、だれでもが経験することですが、吃音者は日常の生活場面でも起こってしまいます。
話すことが自分の思うようにできないという、その程度は人によってさまざまであり、また、話す時の状況や吃音者の心理状態によっても変わってきます。
吃音者は、世界中で民族や使用する言語にかかわらず、ほぼ100人に1人の割合でいると考えられています。社会の中では少数派であるといえます。一方、日本だけでも100万人という多くの方が吃音を持っていることにもなります。
吃音の研究や改善への取り組みは、多くの人たちにより行われており、その理解は着実に進んできています。しかしながら、吃音の原因については未だ解明されていません。そのため、根本的な治療方法も確立されていないのが現状です。
2)社会の受け止め方
社会の人々にはどのように受け止められているのでしょうか。社会の中の少数派であるということから、吃音者に接する機会が少なく、吃音について、吃音者についてよくわからない方も多いのではないでしょうか。率直に吃音について語るということを、われわれ吃音者も避ける傾向にあることも一因だと思いますが、吃音や吃音者についてもっと理解していただきたいと考えます。
吃音は、言語障害の一つとして取り上げられることが多いですが、障害なのかそうでないのか、その境界領域にあるということも理解が難しいことの結果なのかもしれません。
吃音を持つ人たちへの対応をみると、幼児や児童に対しては、ことばの教室などがありますが、中学生以上の生徒、学生に対しては対応する機関がほとんどありません。一人で吃音の問題を抱えながら青春時代を過ごしていくことになります。成人になっても、そのような状況は変わりません。言友会に集まっている人達もごく一部です。
吃音の問題というと、今でも吃音者個人の問題と捉えられがちですが、社会の問題として捉えていくことも必要ではないでしょうか。吃音者にもいろいろな能力を持つ人たちがいます。その能力が社会に十分生かされなければ、その社会的損失は大きなものになります。
3.吃音問題とは
次の3つの視点から、5つの項目として捉えています。
<吃音と私>
1)話すことの困難と当惑の感情
2)他者から受ける無理解、いじめ、差別
3)吃音を持つ自分を受け止められないこと
<人間的成長>
4)社会的人間としての成長の阻害
<社会的問題として>
5)吃音者の能力が生かせないことの社会的な損失
4.解決に向けての取り組み
5つの項目ごとにわれわれの取り組み方を述べます。
1)「話すことの困難と当惑の感情」に対して
話すことが自分の思うようにできないことがある、これは戸惑いの感情を生みさらに話すことの不安に結びつき、ついには話すことに対する自信をなくしていきます。思うようにできない不全感がいつも心を満たしています。多くの吃音者は、吃音を改善したいと考えていますし、そのような気持ちで言友会の門をたたく人も少なくありません。吃音が改善されていくと、自信の範囲が広がり、それが行動の範囲を広げ多くのことを経験し、そしてまた自信が増していきます。生きていく選択肢が広がり、自分らしい生き方を見つけやすくなります。根本的な治療方法がない現在、吃音の改善ということの中には、現象面における改善とともに、心理面からの改善をめざすことも大切です。両面における今まで重ねられてきた多くの試みをもう一度見直し、改善のための工夫やトレーニングに取り組みたいと考えます。楽しい方法、一生できる方法を見つけることができるかもしれません。その際、言語聴覚士、研究者ならびに吃音に関わる方々との協力をお願いしたいと思います。
2)「他者から受ける無理解、いじめ、差別」に対して
社会の中では少数派であること、また話すときのその特徴から、周囲の人の好奇心を刺激し、特異な目で見られたり、からかいのことばを掛けられたりします。吃音者にとって重く心の負担となっています。さらに、いじめ、差別につながっていくこともあります。
その背景には、吃音のことや吃音者のことが社会の人々に十分理解されていないことがあるようです。外に向かって、自分のこと、吃音のことをもっと積極的に発言していきたいと考えます。
周りの人の理解という点では、幼児期、学童期の子供たちに対してはなお一層大切なことです。ことばの教室の先生方との交流をはじめ、行政機関や福祉団体などへも働きかけ、共に活動を進めていきたいと考えています。
広く一般の方へもさらに一層アピールしていきます。そのような行動を通して、ひとりで問題を抱え悩んでいる吃音者にも、言友会の存在を知っていただきたいと思います。
3)「吃音を持つ自分を受け止められないこと」に対して
吃音をなおすこと、改善することはたやすいことではないことも事実です。吃音を持ちながら生きていかなければならないことがあります。その時、吃音に押しつぶされないことが大切です。
自分を見失ってはなりません。吃音を持つ自分を認めてあげましょう。吃音から逃げるのではなく、吃音をしっかり見止め理解することも必要です。そこから、自分について、人間について、そして人生について考えることへとつながっていきます。
吃音ということばのつまずきから、われわれ吃音者は、人生、人間、私ということを考察する契機が与えられたとも言えます。そのような考察の中から、自分らしい生き方が見えてくるはずです。
いろいろな考え、先輩の意見を聞くことは大事です。しかし、自分の人生は自分で切り拓いていく以外にはありません。一つの価値観に捕われるのではなく、吃音者がその人らしく生きていくことを応援していきたいと考えます。
4)「社会的人間としての成長の阻害」に対して
われわれは、社会のなかで、多くの人と関係を作りながら生きていかざるを得ません。学校で学ぶ、仕事を得て働く、結婚し子を育てる、地域の中で活動する、趣味を楽しむなど、ある時はやむを得ずであったり、ある時は積極的であったりします。
その時、話すことは避けられません。話すことが苦手な吃音者は、人との関わりが苦手な人が多いようです。そして、新しいことへの挑戦を避けたり、人生でのいろいろな経験の機会を失うこともあります。それが人間的な成長を妨げています。
いろいろなことを学んでいく成長期の子供たちにとってはそのことは特に深刻です。
コミュニケーションは人にとってとても大事なものであり、人間的な成長にとっても必要です。話すことの苦手な吃音者は、いままでその技術を習得することにも消極的でした。
吃音者の人間としての成長に欠かせないコミュニケーション技術も積極的に勉強していこうと考えています。そして、いろいろなことにチャレンジしていく意欲、勇気が湧いてくるような活動を目指します。
5)「吃音者の能力が生かせないことの社会的な損失」に対して
吃音者は話すということについて特徴を持つ人達でありますが、その他の能力は全く一般の方たちと変わりません。いろいろな能力を持つ人達がいます。ただ、吃音を持つゆえに、自分でその能力を開花させることをしなかったり、あるいは、能力を生かせる機会が与えられなかったりしているに過ぎません。
それらの能力を社会に生かせないということは、吃音者にとって不幸なことですが、社会にとっても大きな損失です。われわれ吃音者も自分達の持つ能力を生かすための努力をしますし、社会の側からも吃音者を理解していただき、その能力が埋もれることのないようにしていきたいと思います。
このことを社会に訴えていくことも、NPO法人としての千葉言友会の大事な仕事と考えています。
5.まとめ
21世紀を迎え、NPO法人となった千葉言友会のこれからの活動の考え方を示しました。それは、吃音者が一人の人間として成長して、その能力を十分に発揮し、その人らしく生きていくことを応援するものです。吃音に関心のある人々とも協力していきます。
また他のハンディキャップを持つ人達とも啓発し合いながら、だれもが住み易い社会を築いていきたいと考えます。
以上